日本の労働市場において、ホテル・宿泊業も慢性的な人手不足に悩まされています。その中で、外国人技能実習制度と特定技能において宿泊業が解禁されており、この制度を活用することは、人材確保の有効な手段として注目されています。本コラムでは、ホテル・宿泊業で外国人技能実習生を受け入れるための要件や注意点について、制度の仕組みとあわせて詳しく解説します。
ホテル・宿泊業で技能実習生を受け入れるための要件
技能実習実施者・受け入れ企業に関する要件
外国人技能実習生を受け入れるためには、企業が技能実習制度に適合する体制を整えている必要があります。具体的には以下の要件があります。
- 実習実施者(企業)は法令遵守の姿勢が求められ、過去に労働関係法令違反などの重大な違反歴がないこと。
- 技能実習計画を作成し、外国人技能実習機構の認定を受けること。
- 実習実施体制(実習責任者・指導員・生活指導員の配置、宿舎の整備、日本語教育の実施など)を整えていること。
- 監理団体(協同組合や商工会など)を通じた受け入れが原則で、自社での受け入れ(企業単独型)は限定的です。
外国人技能実習生がホテル・宿泊業で働くための要件
技能実習制度では、実習対象職種が限られています。宿泊業は2020年に追加され、宿泊職種「接客・衛生管理作業」として、宿泊施設における、宿泊、飲食、会合等での施設の利用客に対する、到着時・出発時の送迎、チェックイン・チェックアウト作業、滞在中の接客作業や料飲提供作業、またそれらに伴う施設の準備・整備、利用客の安全確保、衛生管理のための作業を行うことが認められています。
また受け入れ側の企業の要件として旅館業法に定める旅館・ホテル営業の許可を得ている、もしくは食品衛生法に基づく営業許可を得た宿泊施設でなければ受け入れを行うことができません。
技能実習1号・2号・特定技能1号の移行要件
技能実習は段階的に構成されており、一定の試験に合格することで次のステップに進むことが可能です。
技能実習1号(1年目)
入国からの1年間は基礎的な業務習得を目的とします。具体的には
- 利用客の送迎作業補助 ①到着時、出発時の送迎 ②手伝いを必要とする利用客への対応
- 滞在中の接客作業補助 ①利用客への挨拶 ②客室への注文品の配送・提供 ③荷物の預かりと返却 必須業務 (移行対象職種・作業で必ず行う業務)
- 会場準備・整備作業補助 ①会場の清掃と準備 ②テーブルセッティング ③食器類の後片付け
- 料飲提供作業補助 ①注文の受付(アレルギーの確認を含む※5) ※5アレルギーの有無を上司に確認 ②料理の提供(手消毒を含む) ③飲物の提供(手消毒を含む)
- 利用客の安全確保と衛生管理補助 ①利用客の安全確保 ②衛生管理
などの技能を学んでいきます。
技能実習2号(2~3年目)
1号修了後、技能検定基礎級に合格すると2号へ移行。
2年目以降は1年目の内容に加え、チェックインチェックアウトの作業補助を実習することになります。
特定技能1号
技能実習2号修了者が、より長期的な労働者としての在留資格を得るための制度です。
※技能検定試験や日本語能力試験に関する詳細は一般社団法人 宿泊業技能試験センターの公式ページをご覧ください。
ホテル・宿泊業での技能実習生の受け入れ期間
技能実習制度単体では、基本的に3年間が最大の受け入れ期間です(1号1年+2号2年)。
しかし、技能実習2号を良好に修了した者は、特定技能1号に移行することで追加で最長5年間、計最大8年間の在留が可能となります。
このように長期的に働いてもらえる体制を整えることで、人材の定着や育成がしやすくなります。
ホテル・宿泊業で受け入れできる実習生の人数
受け入れ可能な人数は、実習実施者の常勤職員数により上限が決まっています。
- 常勤職員が30人以下:実習生は最大3人
- 常勤職員が31~40人:実習生は最大4人
- 以降、常勤職員10人ごとに1人増加(上限あり)
このように、自社の規模や教育体制に応じて、適切な人数での受け入れが求められます。
ホテル・宿泊業での技能実習生の業務・作業内容
ホテル・宿泊業における技能実習生の主な作業は次の通りです。
- 先述した業務を必須の業務として全体の実習時間の50%以上行わせる必要があります。
- また、関連業務(全体実習の50%以下)として
⑴玄関周辺の接客作業 ①ポーター ②車の誘導 ③ドアの開閉
⑵客室への案内作業
⑶客室の清掃・整備作業
周辺業務(全体実習の30%以下)として食器洗浄作業を行わせることも可能です。
あくまでも”実習”であるため、単純労働者としての扱いではなく、技能の習得を目的とした実務経験を提供することが求められ、指導員による指導の下行わせる必要があります。
ホテル・宿泊業の外国人技能実習生の受け入れ状況
厚生労働省や外国人技能実習機構のデータによると、観光業やサービス業の人手不足を背景に、ホテル・宿泊業における技能実習生の受け入れは年々増加傾向にあります。
特に都市圏や観光地を中心に、外国人観光客への対応力を高める目的で、外国人実習生を積極的に登用している企業が増えています。
ホテル・宿泊業で技能実習生を受け入れる場合の注意点
技能実習制度の目的は、単なる労働力の補充ではなく「技能移転」です。そのため以下のような注意点があります。
- 実習計画の形骸化を避け、実際の業務が計画に沿っているかを常に確認する
- 宿泊・労働環境の整備(寮・通勤・休日・残業時間など)
- 日本語能力に配慮した指導体制の構築
- 実習生へのハラスメント防止と相談体制の確保
- 技能実習制度や入管法の改正に対する適切な対応
特に実習と称して単純労働を強いるようなケースは、制度違反として指導・罰則の対象になります。
まとめ
ホテル・宿泊業界における外国人技能実習生の受け入れは、人材確保の有効な手段である一方、制度の趣旨や法令を正しく理解したうえでの運用が求められます。
企業にとっては、適切な教育体制と労働環境の整備が不可欠であり、外国人にとっては安心して働ける職場作りが大きなポイントです。技能実習制度と特定技能制度をうまく組み合わせることで、短期・長期双方に対応した柔軟な人材戦略が可能になります。
今後ますます国際化が進む宿泊業界において、外国人材との共生を図ることは、企業の競争力を高める重要なカギとなるでしょう。