日本において林業は、高齢化や過疎化の影響で人手不足が深刻な分野の一つです。このような背景のもと、2024年に外国人技能実習生や特定技能外国人での受け入れが可能となりました。しかし、林業分野は危険な作業も多く、技能実習においても安全配慮に伴う特有の要件や注意点が多くあり、適切な理解と準備が不可欠です。本コラムでは、林業分野で外国人技能実習生を受け入れるために知っておくべき要件と注意点をわかりやすく解説します。

林業分野で技能実習の対象となる作業内容

林業職種での対象となる作業の定義は、刈払機やチェーンソー等を使用し、山林種苗の植付、地拵え及び健全な育成のための下刈り等の手入れや、伐木・造材等を行う作業をさします。

その中で必須となる実習が、主に以下の2つの作業区分に分類されます。

育林作業

森林の造成・保育を目的とした作業であり、以下の工程が含まれます。

  • 地拵え:植栽前の作業
  • 植付:苗木の植え付け
  • 下刈り:植林木を傷つけることなく刈払い
  • 除伐:不要な樹木の伐採
  • 枝打ち:のこぎりを用いて余分な枝の除去
  • 間伐:木の成長を促す間引き作業

※山地・傾斜地での作業が多く、安全確保のための装備や手順の理解が必要です。

※使用機器は、刈払機、手鋸、鍬などであり、これらの機器を使うための基礎的な講習を受講してから作業に入ることが前提となっています。

素材生産作業

木材の生産を目的とした伐倒・造材・集材・搬出の一連の作業です。

  • 伐倒(チェーンソー):1年目においては、木を切り倒すための作業となる作業を行う
  • 造材:ガイドバーよりも細い材の玉切り
  • 木寄せ:つるやとびを使って木寄せ

※技能実習生には林業用機械(ハーベスタ・フォワーダ等)の操作は禁止されており、補助的な作業に従事します。

これらの作業はいずれも自然環境下での体力的・技術的負担が大きく、特に熱中症や転倒・切創といった事故のリスクを常に伴います。そのため、技能実習生には段階的かつ丁寧な指導が求められます。また、作業工程ごとの記録、チェックリストによる確認、反復教育を通じて、作業の正確性や安全意識を高めることが、制度全体の信頼性維持に直結します。

林業分野で技能実習生を受け入れるための要件

林業分野で技能実習生を受け入れるには、以下の法的・制度的要件を満たしている必要があります。以下はOTIT(外国人技能実習機構)および関係法令に基づく林業職種固有の具体的な要件です。

実習実施者に関する条件(下記のいずれか)

  • 「林業労働力の確保の促進に関する法律」に基づく改善計画の認定を受けていること。
  • 「森林経営管理法」に基づき、民間事業者として公表されていること。

技能実習指導員に関する条件

技能実習指導員は、林業技能検定に合格したしたものである必要があります。しかし、この検定は令和6年8月29日に開始したばかりのため、令和9年3月31日までは経過措置として以下に記載する方も技能実習指導員とすることができます。

  1. 育林・素材生産作業に関し7年以上の実務の経験を有する者
  2. 林業労働力の確保の促進に関する法律に基づく資金の貸付け等に関する省令(平成8年農林水産省令第25号)第1条第1項に基づき、「現場管理責任者(フォレストリーダー)」と登録されている者

受け入れ人数の基準

林業職種では技能実習生の総数が、企業の常勤職員数(技能実習生・特定技能外国人を含まず)を超えることができません。

安全衛生対策の徹底

  • チェーンソーを使用する場合、安全衛生特別教育を事前に実施すること。
  • 刈払機を使用する場合、安全衛生教育の実施が義務付けられている。

これらの条件を満たし、適切な受け入れ体制が整っていることが、技能実習制度の健全な運用と実習生の保護に直結します。

林業分野で技能実習生を受け入れるには、以下の点に注意して体制を整える必要があります。

  • 技能実習指導員および生活指導員の配置
  • 作業内容と安全教育を明記した技能実習計画の作成
  • 講習内容(育林・素材生産作業に関する基礎)を含めた初期講習の実施
  • 監理団体と連携した進捗確認や支援体制の構築

技能実習2号移行対象職種に林業職種(育林・素材生産作業)が追加

林業職種は令和6年に移行対象職種に追加されたことで、最長で5年の技能実習を行うことができるようになりました。1年目となる技能実習1号において、認定を受けた計画通りの実習を行い、技能評価試験(基礎級)に合格できれば、技能実習2号(2年目、3年目)に進むことができ、さらに技能評価試験(随時3級)に合格できれば、技能実習3号(4年目、5年目)での実習(就労)が可能となります。

技能実習2号に移行するための要件

  • 所定の実習期間(通常1年)を修了していること
  • 技能評価試験(初級)に合格していること
  • 技能実習計画が2号に対応していること
  • 実習実施者が良好な実施状況であると認められること

育林・素材生産作業に関する基礎的な知識を習得させる講習の事項等

育林・素材生産作業に係る技能実習では、労働安全衛生法施行規則第10条第2項第2号二に基づき、安全衛生業務に関する講習を実施することが求められます。具体的には、以下の一般的な内容に加え、厚生労働省が定める基準に従って講習を行います。

  • 雇入れ時の安全衛生教育
  • 作業開始前の保護具の着用
  • 作業に必要な機械及び周囲の安全確認
  • 異常時の応急措置の習得

これらに加えて、効果的な技能の修得と労働災害防止を図る観点から、実施すべき講習内容がさらに具体的に定められており、技能実習1号では総時間数46時間以上、技能実習2号では総時間数97時間以上の講習が必要です。

技能実習の区分事項時間数
第一号技能実習育林・素材生産に共通する事項21
育林に関する事項19
素材生産に関する事項6
合計46
第二号技能実習育林・素材生産に共通する事項30
育林に関する事項9
素材生産に関する事項58
合計97

講習内容の詳細はこちら

この講習は、座学、見学、実地訓練を組み合わせ、厚生労働省が公表している別表やガイドライン(例:「チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン」)を参考に、以下の教材等を使用して実施します。

  • フォレストワーカー研修テキスト Vol.1~3(全国林業改良普及協会)
  • 育林・素材生産作業に関する講習テキスト(全国森林組合連合会)※林野庁HPに掲載予定

チェックリストの記入

講習終了時には、内容の理解度を確認するためチェックリストを用いて評価した上でその結果を記録に残し、事業所に備え付けておくことが義務付けられています。

チェックリストはこちら

技能実習計画の審査の基準について

技能実習は、実習内容のうち必須業務が全体の実習時間の過半数を占めていることが必要とされています。

林業分野においては、育林と素材生産の業務が全体実習時間(総労働時間)が必ず50%以上実施しなければなりません。その上で、以下の点にも注意が必要です。

  • チェーンソーを使用する作業の前に安全衛生特別教育の実施
  • 刈払機を使用する作業の前に安全衛生教育の実施
  • チェックリストによる習熟度の確認
  • 林業機械(ハーベスタ、フォワーダ等)の運転は禁止
  • 業務内容が育林・素材生産の範囲に収まっているか

これらに反する内容が含まれている場合、技能実習計画は認可されません。

林業分野で特定技能への移行するための要件

技能実習2号を良好に修了した実習生は、特定技能1号への移行が可能です。

特定技能(林業)への移行には、以下の要件があります。

  • 日本語能力試験(N4相当)以上の合格
  • 技能評価試験(随時3級)への合格
  • 健康状態が良好であり、労働契約が適正に締結されていること

これにより、より長期的かつ安定した労働力としての定着が期待されます。

林業で技能実習生を受け入れる際の注意点

林業は危険を伴う作業が多いため、実習生の安全確保は最重要課題です。

  • 安全教育は通訳等を活用して確実に実施
  • 監理団体との連携により、定期的な作業環境の点検
  • 熱中症や寒冷下での作業に対する配慮

まとめ

技能実習生の受け入れは、林業の現場に新たな力をもたらす一方で、受け入れる側にも大きな責任が伴います。文化や言語の壁を越えて、安心して働ける環境を整えることは、長期的な信頼関係の構築につながります。法令の遵守はもちろんのこと、実習生一人ひとりの人間性に目を向け、丁寧な対応を心がけることで、双方にとって実りある制度となるでしょう。今後も持続可能な林業の発展に向けて、実習制度の本来の趣旨を理解し、適切な運用を行っていくことが求められます。

林業職種における外国人の受け入れのついて、不明点などがございましたら、ぜひ弊組合までご相談ください。