かつて山から切り出された丸太は、町の製材所で汗を流す職人たちの手によって、柱や板へと形を変えていきました。その光景は、いまや技能の継承と人手不足という課題に直面しています。そんな木材加工の現場に、今、新たな風をもたらしているのが外国人技能実習生の存在です。本コラムでは、木材加工分野で技能実習生を受け入れるための要件と注意点を解説します。
木材加工分野における施設(事業所)の主な受け入れ要件
一般社団法人全国木材組合連合会の確認を受ける
木材加工職種は、「技能実習制度の対象職種」の一つですが、業界の専門性が高く、作業内容が多岐にわたるため、制度適用に当たっては「業界団体の目による確認」が求められます。
一般社団法人全国木材組合連合会(全木連)は、技能実習に適した内容であるかを審査する役割を担っています。
つまり、「全木連の確認=制度に適した受け入れ内容かどうかの第三者チェック」であり、これを経ずに技能実習計画を進めることはできません。
技能実習生を受け入れる施設は、以下の要件を満たし、全木連の確認を受ける必要があります。
作業安全規範の遵守
「農林水産業・食品産業の作業安全のための規範(個別規範:木材産業)」に基づく取組が行われていること。
全木連による確認
上記の取組状況について、全木連の確認を受けた者であること。
この確認手続きは、技能実習計画の認定申請前に行う必要があります。
確認手続きの流れ
全木連の確認手続きは以下のように進められます。
申請書類の提出
必要な書類を準備し、全木連に提出します。
取組状況の確認
全木連が提出された書類を基に、作業安全規範の取組状況を確認します。
確認証の発行
確認が完了すると、全木連から確認証が発行されます。
手続きには時間を要するため、余裕をもって申請を行うことが推奨されています。
注意点
- 確認手続きは、技能実習計画の認定申請前に完了している必要があります。
- 全木連の確認を受けていない場合、技能実習計画の認定が受けられない可能性があります。
詳細な手続きや必要書類については、全木連の公式ウェブサイトをご参照ください。
https://www.zenmoku.jp/exam/about/2_index_detail.php
木材加工分野で技能実習生が働くための要件
技能実習1号
対象職種・作業であること
木材加工職種(機械製材作業)
木材加工製材機械を使用し、木材を木取りして製材、仕上げ、検査を行い、製材品を製造する作業。
※技能実習生を受け入れる事業所においては、「農林水産業・食品産業の作業安全のための規範(個別規範:木材産業)事業者向け」(令和3年2月26日付け2林政産第168号林野庁長官)に基づく取組が行われていることを要件とする。当該取組状況について、一般社団法人全国木材組合連合会の確認を受けた者であること。
―外国人技能実習機構 審査基準抜粋
注意点
該当していない業務では受け入れができません。
技能実習計画の作成・認定
技能実習の内容・期間・教育体制などを記載した「技能実習計画」を作成し、外国人技能実習機構(OTIT)から計画の認定を受ける必要があります。
→受入企業または監理団体が外国人技能実習機構へ手続きを行います。
在留資格の取得(技能実習1号)
技能実習1号で来日する実習生は、「技能実習1号」という在留資格で日本に滞在します。
在留期間は最長1年となります。
→受入企業または監理団体が出入国在留管理庁へ手続きを行います。
受け入れ企業の要件
- 労働関係法令(最低賃金法、労基法など)を遵守していること
- 常勤職員数に応じて受け入れ人数に上限あり(例:職員30人以下なら実習生3人まで)
- 安全衛生・教育体制が整っていること
- 実習生の生活支援(寮、相談体制、日本語学習など)を行えること
監理団体を通じた受け入れ(団体監理型)
多くの企業は、登録された監理団体を通じて実習生を受け入れます。
監理団体は実習の支援・監査・指導を行い、制度の適正な運用をサポートします。
技能実習評価試験(基礎級)を見据えた指導
- 技能実習1号の最終段階では、「技能実習評価試験(基礎級)」の受験が必要です。
- 合格することで、2年目の「技能実習2号」へ移行できます。
注意点
- 実習内容が計画と異なる場合は制度違反となります。
- 違反があれば受け入れ停止や企業名の公表など厳しい処分の対象になることがあります。
技能実習1号から2号への移行要件
技能実習1号(1年目)を修了して、2号(2〜3年目)に移行するには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
技能実習1号を適正に修了していること
- 所定の1年間の実習を終えている。
技能評価試験(基礎級)に合格していること
- 木材加工の「技能実習評価試験(基礎級)」に合格していることが必要。
※ 試験は実技と学科の2科目。いずれも合格が必要。
※ 一般社団法人「全国木材組合連合会」等が実施主体。
試験の詳細・受験案内はこちら
https://www.zenmoku.jp/exam/
注意点
試験結果が2回不合格だった場合は、原則帰国となります。
技能実習計画の2号の認定がされていること
「技能実習計画(2号)」が、外国人技能実習機構の認定を受けていること。
→受入企業または監理団体が外国人技能実習機構へ手続きを行います。
実習実施者(受入企業)と監理団体が適正に運営されていること
- 実習実施者が適切な実習体制・指導体制を整えており、法令違反等がないこと。
- 監理団体(組合など)が適正に監理業務を行っていること。
在留資格変更手続きが行われていること
技能実習1号から2号へ移行するには、在留資格変更申請が必要です。
→受入企業または監理団体が出入国在留管理庁へ手続きを行います。
木材加工分野における技能実習生の受け入れ期間
技能実習の段階 | 在留資格 | 期間 | 主な目的 |
1号 | 技能実習1号 | 最長1年間 | 基礎的な技能の習得 |
2号 | 技能実習2号 | 最長2年間 | より熟練した技能の習得 |
合計 | ― | 最長3年間 |
※木材加工職種での実習は2号まで
木材加工分野で受け入れできる技能実習生の人数
木材加工分野に限らず、技能実習生の受け入れ可能人数は、受け入れ企業(=実習実施者)の常勤職員数に応じて定められた「人数枠」に基づいて決まります。以下にわかりやすくまとめます。
技能実習生の受け入れ人数(基本枠)
原則基準(1号)
常勤職員数 | 受け入れ可能な1号技能実習生の人数(同時期) |
301人以上 | 常勤職員数の20分の1まで |
201~300人以下 | 15人 |
101~200人以下 | 10人 |
51~100人以下 | 6人 |
41~50人以下 | 5人 |
31~40人以下 | 4人 |
30人以下 | 3人 |
例:常勤職員が50人の場合、最大5人の技能実習生を同時に受け入れ可能。
受け入れ人数に関する補足
- この「枠」は1号技能実習生に対するもので、2号の実習生はこの基本人数枠の2倍まで受入れ可能です。
- 実習生の人数管理や入れ替え(ローテーション)には、監理団体と連携して計画的に行う必要があります。
優良認定を受けた実習実施者の場合
優良な実習実施者として認定されている企業は、受け入れ枠が 2倍に拡大されます。
例:職員数50人 → 通常5人 → 優良認定企業なら 10人の1号実習生を受け入れ可能
注意点
常勤職員人数を超えた技能実習生は受け入れることができません。
例:常勤職員人数2人の場合、技能実習生は2人まで受入れ可能
木材加工分野での技能実習生の業務・作業内容
1号技能実習での業務・作業内容な以下のとおりです。
必須業務(必ず行う業務)
(1)機械製材作業
・ 製材作業
(ア)製材機械の作業前点検
1.製材機械の異物確認及び除去
2.製材機械の消耗品の確認及び補充
3.製材機械の油圧・空気圧の確認及び補充
4.製材機械の切削部品の摩耗度・テンションの確認
5.のこ歯の装着状態の確認
6.粉塵ダクト・エアコンプレッサーの稼働
7.製材機械の動作確認
8.作業確認後の報告
(イ)のこ入れ作業
丸太からあらかじめ挽いておいた材を更に細分するためののこ入れ作業
※背板から耳付き板までののこ入れ作業と耳付き板から板材までののこ入れ作業
(2)安全衛生業務
①雇入れ時等の安全衛生教育
②作業開始前の保護具の着用と服装の点検
③機械製材作業に必要な整理整頓
④製材作業時の機械設備及び周囲の安全確認
⑤安全装置の使用等による安全な作業
⑥労働衛生上の有害性を防止するための作業
⑦異常時の応急措置
関連業務、周辺業務
上記必須業務に関連する技能等の修得に係る業務等で該当するものを選択する
(1)関連業務
①丸太、製材品、端材の運搬作業
②運搬機械装置の取り扱い作業
③選木・剥皮作業
④製材品の結束・梱包作業
⑤端材の処理作業
(2)周辺業務
①端材の段積み作業
②製材品の保管作業
③製材品の出荷作業
④掃除作業
(3)安全衛生業務(関連業務、周辺業務を行う場合は必ず実施する業務)
関連業務・周辺業務についても、事業所で行われる業務の一つであることから、必須業務と同様に作業安全に関する研修・教育を行う。 関連業務の運搬作業については、作業計画書の作成、運行経路の表示などの対策を行う。
木材加工分野の外国人技能実習生の受け入れ状況
技能実習制度における受け入れ
- 木材加工職種(機械製材作業)は、2023年10月に技能実習2号への移行対象職種に追加されました。これにより、技能実習生は最大3年間の在留が可能となりました。
- 技能実習評価試験の実施は、一般社団法人全国木材組合連合会が担当しています。
特定技能制度における受け入れ
- 木材産業分野は、2024年に特定技能制度の対象分野に追加されました。
- 2024年度から2028年度までの5年間で、最大5,000人の特定技能1号外国人の受け入れが計画されています。
- 特定技能外国人が従事できる業務には、製材業、合板製造業等に係る木材の加工等です。
※日本人が通常従事している関連業務(原材料の調達・受入れ、製品検査、製品の出荷、作業 場所の整理整頓・清掃など)に付随的に従事することも可能。
まとめ
- 技能実習生を受け入れるには、一般社団法人全国木材組合連合会の確認を受ける必要がある。
- 技能実習制度では、木材加工職種が2号移行対象となり、最大3年間の在留が可能。
- 特定技能制度では、木材産業分野が新たに対象となり、5年間で最大5,000人の受け入れが計画。
今後、制度の活用とともに、外国人材の受け入れがさらに進むことが見込まれます。
詳細な情報や最新の受け入れ状況については、林野庁の公式ウェブサイトをご参照ください。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/mokusan/seisankakou/foreigner.html
木材加工分野における外国人技能実習生の受け入れは、制度の整備とともに拡大傾向にあり、特定技能制度の導入により、即戦力となる外国人材の受け入れが進むことが期待されています。
人手不足、技術継承の壁、そして国際協働、課題の多い木材産業の中で、外国人技能実習制度は「技術の橋渡し」であると同時に、「人の橋渡し」でもあります。
木材加工分野における外国人の受け入れのついてご不明点などございましたら、ぜひ弊組合までご相談ください。