技能実習生の受け入れを検討されている企業様はじめ、すでに受け入れている企業様、または技能実習生本人にとって何よりも大切な『給与』。実習目的とはいえ、自国にいる家族のために送金したり、少しでも豊かな暮らしを求めて異国の地に働きに来ているのが実状といっても過言ではありません。

 最近では少なくなりましたが、『賃金未払い』や『最低賃金割れ』などによっていまだにトラブルに発展する企業様も少なからずいらっしゃいます。長年技能実習生を受け入れている企業様においても日本人従業員と同じ給与の考え方や、企業独自の賃金計算によって後々発覚し問題となる企業様も…

 今回は技能実習において一番核となる給与についてお話いたします。

技能実習生の給与はどう決める?

 まず大前提として技能実習生の給与は受入れ企業様で自由に決められるわけではなく、制度に沿って設定する必要があります。

最低賃金の順守

 最低賃金には、毎年10月に改訂される都道府県別に定められている地域別最低賃金と、産業ごとに制定されている特定(産業別)最低賃金があります。技能実習生の給与設定をする時には、これらの最低賃金を上回らなければなりません。

 仮に、技能実習生の同意のもと最低賃金以下で契約したとしても、その額しか払わなかった場合は最低賃金法違反となります。

労働基準法で定められた割増賃金を支払う

 技能実習生が時間外労働や休日出勤をした場合は、日本人と同様に割増賃金を支払わなければなりません。

  • 時間外労働をした場合:25%以上
  • 深夜労働をした場合(午後10時~午前5時の労働):25%以上
  • 休日労働をした場合:35%以上

 例えば、時間外労働で発生する賃金を低く設定し、技能実習生と合意のうえで労働契約を結んでいても、賃金が上記の割合に基づく算出額を下回る場合は、労働基準法違反となります。

60時間を超える残業時間割増賃金の取扱い

 1日8時間、1週40時間の法定労働時間で働いている企業様で80時間の時間外労働があった場合には、60時間分の時間外労働に関しては割増賃金率25%以上、60時間を超えた残りの20時間分に関しては割増賃金率50%以上が適用となります。

深夜・休日労働の取扱い

 月60時間を超える時間外労働を深夜(22:00~5:00)の時間帯におこなった場合、深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%となります。 月60時間の時間外労働時間の算定には法定休日に行った労働時間は含まれませんが、それ以外の休日に行った労働時間は含まれます。月60時間を超える法定外休日に行った労働時間に対しては、50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

同一労働同一賃金を守る

 「同一労働同一賃金」とは、同じ企業のなかで同じ仕事に従事する労働者に対し、正規雇用・非正規雇用など雇用形態による賃金格差をなくすために設けられたルールです。技能実習生は、有期雇用労働者の区分で従事するため、非正規労働者に該当します。

 ただ、「実習生だから」「非正規だから」などを理由に賃金を低く設定することは避けるべきです。同じ職場で同じ業務に取り組む日本人労働者・正規雇用労働者がいる場合は、前述のルールに則り、必ず同等以上の賃金にすることが重要です。

 同一労働同一賃金のルールには違反による罰則はありませんが、雇用形態による賃金格差に対して明確な理由が説明できない場合、実習生のモチベーションの低下、失踪のおそれや最悪の場合、損害賠償を請求されるおそれがあります。

技能実習生に適切な給与設定または支払いを行わない場合の注意点

 技能実習生の給与を最低賃金に設定すること自体は法的に問題ありません。しかし最低賃金に設定することでデメリットが生じるおそれがあります。

技能実習生の失踪に繋がる可能性

 前述のとおり最低賃金以上の給与を支払っていれば、法律に抵触することはありません。

 ただし、仕事の内容や環境次第では、最低賃金では見合ってないと判断され、不満に感じる実習生も少なからずいるでしょう。だからといってすぐに失踪に繋がるわけではありませんが、トラブルなどさまざまな要因が重なれば失踪に繋がる可能性もあります。

 特に最近は実習生同志、SNS等でのコミュニティが広がったおかげで気軽に他の職種や同職種の方とやり取りができるのですぐに情報が回ります。実習生が過ごしやすくなった半面、企業様としては懸念点の一つと言えましょう。

 また、毎年10月には最低賃金の改定が行われるため、その都度給与を見直さなければならない手間もデメリットと言えるでしょう。

 なお、失踪者を出した企業は実習生の新規受け入れや申請手続きが停止となることもありますので最低賃金を設定する場合は、仕事内容や相場などを考慮したうえで慎重に設定しましょう。

他社や他業種へ転籍のおそれ

 技能実習生は原則として技能実習2号までの3年、もしくは3号も含めると5年の実習を修了したのち、「特定技能」という在留資格への移行が可能になります。

 特定技能の最大の特徴としては、日本人同様、転籍(転職)が可能という事です。特定技能の在留資格は、1号の場合は在留期間が最大で5年、2号の場合は在留期間の上限がありません。特定技能に移行し長期的な就労が見込める人材は、技能実習によって業務に関する技能・知識も十分に備えた人材です。

 もし最低賃金で雇用を続けていた場合、手塩にかけ有能な人材として育て上げた技能実習生が特定技能に移行後、より高い給与を設定している企業に転職してしまう可能性もゼロではありません。このような人材が自社から離れてしまうのは、企業様にとって大きな痛手となり得るでしょう。

 現時点では2027年開始予定の『育成就労』という制度が2024年3月15日に政府が閣議決定されました。育成就労制度は、現行の技能実習制度を廃止、抜本的に見直しを図り、実状に沿った技能実習制度に代わる新しい制度になります。(別の機会にご説明できればと存じます)育成就労制度の一番のトピックと言っても過言ではないのが、ある一定の条件を満たせば転籍が可能と言われております。

 つまり将来的には育成就労制度に移行すると、技能実習にあたる期間中でも転籍ができるという事になりますので、まだ先の話にはなりますが、適切な給与設定を現段階から検討しておいてもよいでしょう。

在留資格別の給与の相場

 では適正な給与とはいくらぐらいなのか。厚生労働省発表の令和5年賃金構造基本統計調査の結果を見てみましょう。

在留資格区分所定内給与額
外国人労働者¥232,600
専門的・技術的分野(特定技能を除く)¥296,700
特定技能¥198,000
身分に基づくもの¥264,800
技能実習¥181,700
その他 (特定活動及び留学以外の資格外活動)¥231,300
参照:厚生労働省 令和5年賃金構造基本統計調査

 上記データは全国の平均的な給与であり、地方によって、職種によって給与水準は様々かと思われますが、前述のとおり技能実習生同士のつながりは全国に広がっておりますので、大切な人材の流出を防ぐためにも知っておいて損はないと思われます。

昇給・賞与・手当について

 結論として、技能実習において必ずしも昇給、賞与を与える法的義務はございません。企業様や、職種によっては昇給が難しい企業様もあるでしょう。

 しかし、ほんの少しでも昇給してあげることにより、『自分の頑張りが評価されている』『もっと頑張ればまだ昇給するかもしれない』と感じモチベーションUPにつながります。母国で待つ家族の為や、将来のために送金、貯金をしている実習生にとっては大きなポイントとなるでしょう。ある企業様の取り組みとして、為替変動による手当を支給している企業様もございます。

 昇給や、賞与等を有効活用して、長く働いてもらえる環境を整えることも大切です。

技能実習生の所得税・住民税について

「技能自習生は所得税・住民税を支払わなくてはならないのか?」

 結論から述べると、技能実習生として日本にきている外国人は日本人同様、賃金から所得税(国税)と住民税(地方税)を支払う義務があります。しかし、税金が免除されるケースもあるため、技能実習生の状況や国家間の取り組みをしっかりと確認することが大切です。

 前述のとおり技能実習生は日本で働く以上、税金を支払わなければなりませんが、1つ注意点として1年目(技能実習1号期間)は免除されます。

 これはどういうことか、まずそもそも外国人の所得税は、日本の「居住者」か「非居住者」によって扱いが異なります。居住者は国内に住所を有する者、または1年以上居所を有する個人を指すのに対して、非居住者はそれ以外の個人の外国人を意味します。よって1年以上居所を有しない技能実習1号は非課税対象となるのです。2年目以降(技能実習2号以降)は居住者区分になるので日本人同様、給料から控除して構いません。

 ただし、2年目に入り税金の控除が始まる前に、税金の説明と控除理由について再度説明をしてあげると、誤解やトラブルの回避となるでしょう。

結論

 技能実習生の給与の相場は、ほかの在留資格を持つ外国人労働者と比べると低い傾向にあるため、最低賃金で給与を設定する企業も多くあります。

 ただし、最低賃金を基準とする場合は、業務内容や環境なども考慮のうえ、慎重に設定することが大切です。また、昇給や賞与の機会を設ける方法も有効です。

 一昔前の日本の考え方だと、外国人を安い給料で雇い、馬車馬のように働かせるという考え方が一般的でしたがそんな時代はとっくに終わっております。今の日本にとっては、働きに来てくれる外国人は貴重な人材となっており大切な存在なのです。

 『お金のために働いているのではない』という日本人特有の美徳は建前でしかなく、技能の習得目的とは言え、働くからにはしっかりと対価を求められます。

 大切なことは、給与に限らずその他の待遇についても、業務や責任の範囲に応じた適切な受け入れをすること、これは日本人従業員の受け入れと何ら変わりはありません。

 企業にとって貴重な人材であること、その人材をしっかりと育むことが企業にも実習生にも多くの豊かな結果をもたらせるように認識を変え、取り組んでいくことが大切です。